八月の銀の雪 伊予原新 新潮社
これも今年度本屋大賞ノミネート作品で、6位だった作品です。
それぞれに悩みを抱える人々が、ある出会いと、科学によって、小さな一歩を踏み出す短編集です。
心温まるいいお話ばかりでした。
You Tuber のマサキBooks さんは、自身と似た境遇の表題作が好きだそうです。
これは地球の内部のお話です。
就活に失敗ばかりしている大学生が、コンビニのベトナム人店員と出会います。
コンビニでは失敗ばかりしている彼女は実は大学院生で、地球の内部の研究をしています。
なんと、地球の内部には、鉄の結晶が雪のように降っているのだそうです。
なんだかものすごく幻想的ですね。
凄いのは、どうしてそういうことがわかるのでしょうか。
それも書いてありました。なんかすごいです。
大学生は、もういちど就職活動を頑張ろうという気になります。
私が共感したのは、シングルマザーの2つ目のお話でした。
これはクジラが歌うお話です。
クジラのオスは複雑な連続音を発して、それがクジラの歌なのだそうです。
イルカが独自の音を発して会話しているというのは聞いたことがあるのですが、クジラもそうなのですね。
ぜひ一度聞いてみたいですね。
他には、伝書鳩のお話と、珪藻という小さな小さな微生物のお話。
これは殻がガラスで、これを使ったアートがあるそうです。
早速調べてみました。こんなのが自然にできるなんて本当に不思議です。
そして、戦勝中日本軍が、偏西風について調べて作った風船爆弾のお話。
風船爆弾というのは、島田荘司著「御手洗潔と進々堂珈琲」に詳しく出てきていたので知っていました。
爆弾をつけた風船を、偏西風に乗せてアメリカまで飛ばすという作戦だったようです。
アメリカでどのくらい被害があったのかは、公式な記録がないようなのでわからないそうですが・・・
また、地球は十万年サイクルで氷河期とそうでない期を繰り返しているそうです。
知らない世界のことがいろいろと書いてあって、面白かったです。
地球って本当に不思議なことがたくさんありますね。
そしてどのお話もとてもやさしい。
登場人物たちは、みんな少しだけ人生に前向きになります。
この少しだけ、というのがなんかいいですね。
少しだけでも前向きになることが出きれば、人生生きていくことができますよね。
人間はやはり、大きな地球の中で生きていて、自然の摂理の中で癒されていくのでしょうか。
また、この本の表紙が雪のようで、本当にきれいです。
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劇場 又吉直樹 新潮文庫
う~ん・・・・ちょっと・・・・これは・・・・
主人公の男がクズ過ぎるんですけど!!!
こういう男、一番嫌いなタイプだなぁ・・・・
演劇の脚本を書いている主人公と、その才能を信じて支える、天使のような女の子、沙希。
もちろん脚本は不評で、全然食べていくことができません。
なにぶん、この主人公の性格が悪いので、脚本もはっきり言ってよくない。
どうしようもないクズなのです。
まあ、読んでいて、まずこの脚本の芝居を見たいとは思わないですねぇ。
変わっているというかなんというか・・・
ああ、これでは一生だめだな、という感じです。
独りよがりで、人の心を打たないのです。
それにくらべて、この沙希ちゃんの、何といい子なことか。
このクズ男にはもったいなさすぎる。
彼の才能を信じて、懸命に支えますが、主人公には沙希の気持ちを理解することは出来ません。
沙希はだんだん追い詰められていきます。
周りの友人たちは、2人を別れさせようとします。
しかし、本来ならこんなクズの話、読むのはさっさとやめてしまうところなのでしょうが、さすがそこは又吉といったところでしょうか。
なぜか読んでしまうのです。
主人公の心の動き、そして2人の関係が見事に書かれています。
が、この主人公、まず一生成功することはないでしょう。
「火花」のお笑い芸人も、人はいいのですが、まず成功することはないですし、こういうタイプの人たちには破滅が待っているだけです。
そんな中で、主人公も、「火花」のお笑い芸人も、必死でもがきますが、もがいてももがいても這い上がることは出来ないのです。
切なくて、苦しいですね。
そんな必死でもがいている人たちの心の機微を見事に描き切る又吉は、さすが実力者ですね。
非常に力作だと思います。
ただ、読む人を選ぶ作品ではあると思います。
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最後の晩ごはん 刑事さんとハンバーグ 椹野道流
前回ですっかり、お兄さんの一憲のファンになってしまいましたが、今回でますます大ファンになってしまいました!
一憲さんステキ!
何ていい人!!
今回は、お兄さんの高校時代の親友が、刑事になっていて、偶然「ばんめし屋」の隣の警視庁に勤務していて、お兄さんと再会します。
しかし、なぜか彼、涼彦には、海里、夏神、ロイドにしか見えないマフラーが巻き付いていたのでした。
マフラーの幽霊?いぶかる海里は、その謎を探っていきます。
探るうちに、お兄さんの高校時代の様子もわかってきます。
なんと、お兄さんは高校時代サッカー部で、Jリーグのサテライトチームにスカウトされていたとか。
家族のため、海里のためにそれを断って大学に行き、公認会計士の道を選ぶのです。
どんな葛藤がそこにはあったのでしょうか。
海里もだんだん、そんなお兄さんのことを理解していきます。
そして涼彦にはストーカーにまつわる辛い過去があることがわかります。
マフラーの秘密も判明していきます。
彼が刑事になった理由もそこにあるのでした。
涼彦にとって、ハンバーグは辛く、そして懐かしい青春の思い出の味でした。
今回海里は、かなり危険な目にあいますが、それを夏神が優しく支えます。
過去が取り戻せるわけではありませんが、それでもその過去を抱えながら前に進む涼彦がいいですね。
いや~、そして、お兄さんほんとにいいですねぇ。
読んでいて、暖かい人情にほっこりする作品です。
そして相変わらず、どのご飯もおいしそうです。
このシリーズ長いのと、まだ完結していないのとで、このまま読み進めるか迷うところだけれど、お兄さんに会いたいからなぁ。
どうしようかな。
ちなみにこの涼彦、実はゲイで、今でもお兄さんに片思いし続けているとのこと。
う~ん、切ないのぉ。
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御伽草子 太宰治 青空文庫
カチカチ山
カチカチ山を太宰が解釈したらこうなるんだな、という感じです。
カチカチ山はかなり残酷な話ですが、タヌキがおばあさんを殺してその肉をおじいさんに食べさせるという、子供に読ませていいのか、思うくらい凄いです。
まあ、おじいさんがタヌキをタヌキ汁にしようとするのが発端なのだけど。
私が考えていることと、太宰が考えていることが一致していたのでうれしくなりました。
太宰はウサギを16歳の美しい処女、タヌキは37歳(ウサギには17歳とうそを言っている)の図々しい、醜男として、ユーモアたっぷりに書いています。
読んでいて何度も吹き出しました。
タヌキはどこへ行くにもお弁当を持っていくのですが、その中身はイタチのフンでまぶしたミミズのマカロニ。
それを見て16歳のオトメのウサギは絶句します。
そりゃ嫌われるわなぁ。
それにしても、こんなユーモアあふれるお話を書くとは。
太宰の印象が少し変わりました。
瘤取り
これも笑えます。
子供用の絵本では、こぶのあるおじいさんは正直者だけれど、太宰にかかればそうじゃない。
お酒好きで、しかし真面目で無口なおばあさんと、品行方正で酒もたばこもやらず、黙々と働く、40過ぎの独身の、聖人のような息子に囲まれ、小さくなっています。
そんなおじいさんだから、こっそり山で酒を飲んで寝てしまい、気づくと鬼たちに会い、ああいうことになるのでした。
しかしこのマジメなおばあさんと、聖人の息子は、お爺さんのこぶがなくなっても、大した反応はしませんでした。
気の毒なのは隣のおじいさんです。
この人、絵本ではいじわるじいさんのように書かれていますが、太宰にかかると主人公より非常に立派な人なのでした。
何しろ真面目なのと、とても緊張したために、鬼たちの前でうまく踊れず、不幸なことになりました。
太宰曰く、だれも悪いことはしていない、それでも不幸な人が出てしまった。
それは性格の悲喜劇というもので、人間生活の底には、いつもこの問題が流れているのだ、そうです。
浦島さん
これは、なんとも・・・・
浦島太郎と亀の会話が理屈っぽい~。
しかも乙姫様は一言もしゃべりません。
竜宮で太郎に好きなように過ごさせはするのですが、一緒にはいません。
そりゃ太郎も、竜宮にいてもつまんないわな。
太宰は、帰った後の浦島さんが、幸せな老後を過ごしたとしています。
そういう解釈もありか。
歳を取ることが不幸だというわけではありませんからね。
舌切雀
まず、でてくるおじいさんとおばあさんが若い。
おじいさんといっても、40歳くらい。おばあさんは33歳。
おじいさんは働きもせず、おばあさんは一人苦労しています。
そしておじいさんがスズメと話しているのを、若い女と浮気と勘違いして、しゃべれないようにとスズメの舌をちぎる!(こわ~)
最後、おばあさんは凍死し、おじいさんは職に就き、いい人生を歩みます。
スズメの呪いか?
なんかおばあさんが報われませんねぇ。
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とある魔術の禁書目録④ 鎌池和馬 電撃文庫
このシリーズ、4巻まで読みましたが、1~4まで、舞台が同じ夏休み期間内と知って驚きました。
要は、話から話までの間がほんの数日という設定なのです。
しらべてみたら、このシリーズ50巻以上ありますが、全部そんな感じで、話の最後までもほんの3~4カ月くらいの間の出来事らしいです。
1~4でも、当麻は最後必ず入院するので、すでにもう4回入院し、かなり瀕死な目に合うし、腕まで切られてつなげたってのに、すぐ退院して元気はつらつ、今回は海まで行っています。
どんだけ長い夏休みなんでしょうか。
あと、当麻は元気だねぇ。
そして今回当麻の両親が出てきますが、割といいとこのおぼっちゃんなことが判明し、お母さんはお嬢様キャラであることが判明しました。
あと、お父さんがなんかのほほんとしていて、なんかかわいいです。
まあ、当麻が一人暮らししているところにインデックスが居候して、あとネコまで飼っているのですから、仕送りはたっぷりもらっているのでしょうか。
そういう変なところが気になります。
そして今回は、私の好きな神裂火織が表紙だったからついつい買ってしまったのですが、神裂、やっぱりかっこいいですね。
そして今回は当麻よりも、神裂と土御門が活躍します。
土御門、なかなかいいキャラです。
だんだんスケールが大きくなってきましたが、さて、なにしろ50巻もあるこのシリーズ、この先読み進めるべきかどうか、迷うところですねぇ・・・
ただ、次の5巻が、アクセラレータの物語らしいので、なんか見逃せないというか・・・
それに神裂火織がもっと出てきてくれたらいいなぁ。
ライトノベルって、読みやすいし、チャッチャッと読めてしまうから、割と好きなんですよね。
読むジャンルが幅広い、咲紗でした。
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ローマ人の物語Ⅸ 賢帝の世紀② 塩野七生 新潮社
さて、続きです。
トライアヌスの後に皇帝となったハドリアヌスは、思いがけず皇帝となったトライアヌスと違って、皇帝になる野望を持っていました。
この人も良く頑張った人で、あの広大なローマ帝国を、隅から隅まで視察の旅で大半を過ごしたのです。
もちろん見るだけじゃなく、改善策を講じながらの旅でした。
だってローマ帝国ったって、当時もうほぼヨーロッパ大陸全部に、アフリカ、イギリスとものすごいなんてもんじゃない帝国の大きさだったから、全部回るなんて、そりゃ一生分かかったでしょう。
国のために本当に頑張ったハドリアヌスですが、なんだかいつも側に美少年を侍らせていたらしいです。
しかしその美少年、だんだん大人になっていくことに苦しみ(そりゃ、おじさんになったら捨てられるもんねぇ・・・)、自殺してしまったとか。
哀れですねぇ。
まあそれでも善政を施し、ユダヤの反乱までしっかり押さえたハドリアヌスだけれど、元々ちょっと気難しいところがあったのか、長年の旅がたたって起き上がることもできない病気になった時、かなり手におえない性格となってしまいます。
病気のせいだから仕方ないですが、そういうことで、市民からの人気は落ちていきました。
あんなに頑張ったのにねぇ・・・
そして、アントニヌス・ピウスを養子にし、彼に看取られて死にました。
このアントニヌス・ピウス、非常に優れた人格の持ち主でした。
それにこの人はついていました。
トライアヌスが公共事業をやりまくり、ハドリアヌスが旅をしまくり、防衛に力を注いでくれたおかげで、特に何もすることがなく。ローマにとって、とても幸福な時代だったようです。
このアントニヌス・ピウス、本当に品行方正で、何一つ目立ったことはしませんでした。
よって、塩野先生もこの人にさいたページ数は、まあ少ない、少ない。
トライアヌスとハドリアヌスは、けっこう書いていらっしゃるのだけど。
しかし、暴君ネロや、数年にわたる内乱の時代を経て、ヴェスパシアヌスの時にやっと落ち着き、5賢帝の時代になったのはいいことです。
今まで、カリグラやネロなどを見ていると、悪い皇帝というのは、その母親が悪かったり、妻が悪かったりと、周りの女性にかなり影響を受けるようです。
悪い皇帝が悪い妻や母親をつくるのか、悪い妻や母親が悪い皇帝をつくるのか・・・・
トライアヌスもハドリアヌスもアントニヌス・ピウスも皆、もちろん自分もですが、奥さんが問題を一切起こしませんでした。
ハドリアヌスの場合は、旅ばかりしていて、ほとんど奥さんと過ごさなかったようで、夫婦仲もあまり良くなかったようですが。
しかし皇帝というのは、つくづく大変な仕事ですねぇ。
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ローマ人の物語Ⅸ 賢帝の世紀① 塩野七生 新潮社
ドミティアヌスが死んだ後、皇帝になったネルヴァは、最初から高齢だったため、1年半で死んでしまいました。
よって特に何をする暇もなかったのですが、悪いこともせず、この人から5賢帝の時代に入ります。
次のトライアヌスは、初めての属州出身の皇帝となりました。
そのせいか、青年期のことはほとんどわかっていません。
父親が軍隊にいたため自分も軍隊に入り、活躍しました。
そして「名誉あるコース」を進み、ネルヴァの養子になり、皇帝となりました。
この人の時代は比較的平和でよい時代であり、皇帝としての人望も厚く人気がありましたが、そうなるとかえって人間は記録に残さなくなるようで、このトライアヌスに関しては、あまり資料がないようです。
良すぎて目立たない、ということでしょうか。
なんかかわいそうですね。
前々の皇帝ドミティアヌスが、記録抹殺刑となっていることから、元老院やローマ市民たちへの配慮は怠りませんでした。
地味、質素、勤勉、奥さんまでそうだったようです。
きっと悪い評判が立たないように気を使いまくっていたんでしょうね。
皇帝たるもの、苦労が絶えません。奥さんも大変です。
しかしなにぶんにも資料が少なく、「トライアヌス円柱」という、今も同じ場所に立っている円柱に、ダキアの反乱を抑えた「ダキア戦記」が彫られているのを見るしかないようです。
当時のローマ軍というのは、どこに行っても、また、たった一晩だけであってもキチンと堅固な宿営地をあっという間に造り、進軍中には木を切り、森を切り開き、道路や橋を造りながら進むのです。
そんなことをあっという間に成し遂げるローマ兵って凄いですね。
皆、土木工事のエキスパートだったようです。
またトライアヌスは、ものすごい数で一大公共事業を行っています。
その他にもいろいろ善政を行ったトライアヌスですが、彼には男の子がいなかったため、ハドリアヌスを養子に迎えます。
トライアヌスの死後、皇帝になるこの少年はなかなかにやんちゃで、トライアヌスを心配させますが、無事成長し、軍隊でも活躍します。
さて、皇帝となったハドリアヌスについては、この続きでお話します。
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