霧越邸殺人事件 綾辻 行人
1995年2月1日 新潮文庫
綾辻先生の「館」シリーズとはまた違う、家をテーマにした作品です。
少し前にブログで紹介した、東野圭吾先生の「ある閉ざされた雪の山荘で」という作品は、大雪を舞台に設定したお芝居で実際は雪なんか降っていませんでしたが、こちらは本当に大雪が舞台です。
徹底的な大雪、遭難しかかる主人公たち、そこにひっそりとたたずむ大きなお屋敷、訳ありな住人達、外に出られず電話線もダメになり、外界との通信手段がなくなる、そしてそこで殺人事件が・・・
とまあ、非常にベタな舞台設定、まさに殺人事件の舞台といったところでしょう。
登場人物達も、劇団の俳優といったところが「ある閉ざされた・・・」と同じでした。
しかし何といってもこの作品の魅力は、この霧越邸です。
家の設計、テラス、温室、全てが本当に素晴らしいです。
洋式の館の中に、美しい和の調度品の数々。
茶道具とか、ガラス工芸とか、お皿とか、そしてなんといっても本。
日本の文学作品の初版本とかの全集が揃っています。
ページを開いて並べられた「源氏物語絵巻」。
日本文学、海外文学、美術全集や様々な専門書、もうほんとにすごい。
その美しい本が凶器に使われてしまうのは非常に残念です。
それから、素敵なオルゴールに、数々の絵・・・。
私が一番心を惹かれるのは、小さなおひな様。
芥子雛(けしびな)というのだそうです。
人形の頭が象牙でできていて(今は許されませんが)、小さいにもかかわらず一つ一つ素晴らしい技法で作られているそうです。
温室にはいろいろなラ蘭の花が咲き乱れ、たくさんのカナリヤやインコが歌っています。
家具もすごいし、灰皿一つとってもすごい。
決して成金趣味ではなく、品があり、調和が素晴らしい。
この美しい家で殺人事件が起こるなんて、全く許せません。
ああ、こんな家に住みたいです。
湖に面しているところにギリシア神話の彫像、礼拝堂には聖書の物語のステンドガラス。
いいなあ、いいなあ。
ああ、この家は私の理想、夢そのものです。
劇団員の中に、深月という美しい女性が出てきますが、彼女は病気であと何年も生きられません。
そんな彼女は、心がとても静かなのだと言います。
そしてとても静かに日々を生きています。
この家にしてもそうです。
この家の住人は、みな静かに時を過ごしており、家自身もまるで何かに祈りを捧げているようだ、と主人公は思います。
また、事件が終わってから4年後、主人公は回想しますが、その間に時代は昭和から平成へ目まぐるしく変化したとのこと。
一体何をそんなに急ぐ必要があるのか、と主人公は思います。
全くその通りだと思います。
私自身も、忙しく毎日を過ごしていますし、時代の変化はあまりにも早く、ついていけません。
そんな中、この霧越邸は時を忘れたようにひっそりと、祈りを捧げながら立ち続けています。
私がこの家にあこがれるのも、忘れている静かで美しい時の流れを思い出させてくれるからかもしれません。
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