線は、僕を描く 砥上裕將 講談社
2020年本屋大賞ノミネート作品です。
両親を突然の事故で失い、深い孤独の中にいる大学生、青山は、ふとしたことから水墨画の大家、篠田湖山に出会い、その弟子になります。
湖山には千瑛(ちあき)という青山と同年代の孫がいて、やはり水墨画をやっていて、その実力はかなりのもの。
青山を内弟子にした祖父にびっくりした千瑛は、青山と来年の湖山賞をかけて勝負を挑みます。
一方、何が何だかわからないまま内弟子になった青山は、だんだんと水墨画に魅せられ、その世界にのめりこんでいきます。
やがて学んでいくにつれ、水墨画にかかわる人々との交流や様々なことが、孤独な彼の心を癒していき・・・・・
という物語です。
この作者は自ら水墨画をやる方のようで、本の中にも作者の描いた水墨画が載っていました。
全ページの中に、水墨画に対する深い愛情が感じられました。
水墨画をよく知り、その世界を愛している人でないと書けない小説です。
水墨画というのは、正に墨だけで表現する絵画で、私もほとんど知りませんでした。
墨だけで表現するなんて、何て難しいんでしょう。
墨の黒と、半紙の白しかないのです。
まれに紅色をつけることもあるそうですが、ほとんどが黒白の世界。
青山も千瑛も、出て来る人すべてが悩み、苦しみ、そして作品を生み出していきます。
青山は気づきます。
水墨画とは、命を描くこと、そして心を描くことなのだと。
いや、本当はもっともっと深いものだと作者は言っているのでしょうが、私に読み取れるのはここまでです。
青山はこれからもっともっと苦しみ、悩み、そして絵師として成長していくのでしょう。
そしてその横には、きっと千瑛がいるのでしょう。
ちょっと今までにない感じの青春小説で、初めて知ることがたくさんあり、なかなか勉強になった作品です。
特に大きな事件が起こるわけでもなく、悪い人がいるわけでもなく、淡々としているのですが、語りかけてくるところは大きいです。
どの登場人物も、水墨画に真剣に向き合っており、特に千瑛とは、お互いの水墨画への姿勢を尊重しながら認め合い、一緒に成長していっているところがとてもいいです。
それになにより、この小説により水墨画という世界を知ることができました。
この作品の公式サイトを見ると、水墨画を書いているところを動画で見ることができます。
ものすごくきれいです。
墨だけであれだけの表現ができるとは・・・・水墨画ってすごいです。
ミステリーばかり読んでいて少し疲れ気味だったので、こんな爽やかな青春小説もいいなぁと思いました。
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