陰陽師 生成り姫 夢枕獏 文春文庫
大好きな陰陽師シリーズ、初の長編です。
読んでいて、なんか読んだことあるなぁ、と思ったら、短編「鉄輪(かなわ)」を長編にしたものでした。
たしかにこの「鉄輪」はすごいインパクトのあるお話でした。
よく覚えていました。
特に、冒頭の丑の刻参りのシーンがすさまじいのです。
夜中に山中の寺を目指す女の姿は鬼気迫るものがあり、いかに恨みが強いかよくわかります。
源博雅は、月明かりの美しい晩に橋の元で笛を吹いていると、牛車にのった女が現れ、その笛に聞きほれます。
なんどか会ううちに、その女は博雅の笛に合わせて、琵琶を弾き始めます。
美しい共演に、博雅は心を奪われます。
そしてそこで初めて姫の顔を見ます。
その美しさに博雅は心奪われますが、結局そのままになってしまい、それから13年の年月が流れます。
その美しい姫は、没落した家の娘で、頼るのはその愛人である男しかいません。
それなのに裏切られ、挙句の果てに生命のように大切にしていた琵琶まで、男の新しい愛人に取られてしまいました。
その恨みはすさまじい。
いや、でもこんなことされたら、恨む気持ちはわかります。
昔は、女というものは、男性の寵愛を受けるしか生きる道がなかったのですから。
源博雅のように、愛する人が年を取って、シワが増えたり衰えたりすることも、とても愛しい、と思ってくれる男性だったら、こんなことにはならなかったでしょうに・・・・
博雅も徳子姫を想っていたのに、なんで姫の元に通わなかったのでしょうか。
もし、行っていれば、お互い幸せになれたのに。
この徳子姫が哀れでなりません。
初めての長編ということで、最初の方は人物紹介など、今までと重なるところもありますが、読み応え十分の、大迫力です。
徳子姫が、本当の鬼に変わっていくところは、正に壮絶です。
なんとか鬼に変わることを阻止しようとする安倍晴明と博雅。
しかしその願いむなしく、姫はどんどん鬼となっていき・・・・
そしてその哀しい最期。
思わず涙してしまいました。
平安時代、いやそのほかの時代もですが、働いたりすることのできなかった女性の運命とは、なんとはかなく、頼りなく、哀しいものなのでしょう。
今の私たちなど、やろうと思えば、自分で運命を切り開いていくことがいくらでもできるのです。
何と自由で、幸せなことなのでしょうか。
大好きな陰陽師シリーズ、まだまだ続きますので、どんどん読んでいきたいと思います。
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