日の名残り カズオ・イシグロ 早川書房
2017年ノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロさんの作品。
映画にもなりましたね。アンソニー・ホプキンズが、イメージぴったりです。
カズオ・イシグロは、5歳の時、長崎からロンドンへ渡り、ナイトの称号まで受けた方です。
いくら5歳からロンドンに住んでいるといっても、日本人であるこの人が、どうしてここまで、イギリス人の心が書けるのでしょうか?
生粋のイギリス人が書いたみたいです。
日本には執事という文化がありません。
主人公スティーブンスは、父親も一流の執事であり、父親を深く尊敬しています。
正に執事一家。
執事というものは、この本を読んでわかったことですが、まず休暇らしきものがないですね。
プライベートな時間もほとんどありません。
朝起きてから、夜寝るまで仕事のようです。
女中頭のミス・ケントンも、6週間に2日しか休みがないとか。
いくら住み込みとはいっても、これはかなりきついですね。
スティーブンスは自分の主人を心から敬っていたからいいですが、これがそうでなかったら、執事の人生はかなりつらいものになるでしょうね。
物語は、新しく主人になったアメリカ人が、自分が屋敷を少し留守にするので、その間スティーブンスにも休暇を与え、自動車まで貸してくれるところから始まります。
スティーブンスは戸惑いますが、ミス・ケントンに会いに行くことを思いつき。旅行に出かけます。
その旅行中、いろいろの思い出が彼の脳裏に浮かびます。
時代は2つの大戦のちょうど間のころ。
スティーブンスは「偉大な」執事とは何か?を考え、常に誇り高く「品格」のある執事であろうとします。
しかし今、スティーブンスは、自分の人生が果たして正しかったのか、疑問に思います。
自分は選択はしなかった、ただ価値あることをしていると信じていただけなのだ・・・
もし彼が「品格」ある執事であることをここまで望まなければ、ミス・ケントンと結婚したのでしょうか。
結婚後も幸せな人生を送れたでしょうか。
それはよくわからないですが、ミス・ケントンも同じように、自分の人生は大きな間違いだった、スティーブンスと共に人生を歩んでいたら・・・と考えていました。
しかし彼女は、今の自分の人生は幸せなのだと気づきます。
スティーブンスも、後ろばかり振り向いても仕方ない、何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願います。
それを試みるだけで十分だ、その試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、実践した結果がどうであれ、そのこと自体が自らに誇りと満足を覚えるのだという、結論にたどり着くのです。
ものすごく深い物語で、胸にジーンときます。
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