写楽 閉じた国の幻(上)(下) 島田荘司 新潮文庫
島田荘司先生の作品の中では、あまり上位に入ってこない作品だけど、読んでみて、確かに御手洗潔シリーズとは全然違いました。
六本木のビルの回転ドアに息子が挟まれて死んでしまった、歌麿研究者の佐藤。
これは実際にあった事件をもとにしているようです。
彼はその痛ましい事故の前に、だれが描いたかわからない、江戸時代の一枚の不思議な絵と出会っていました。
そして、身も心も傷ついてボロボロになりながらも、その絵を含め、様々ないきさつから、写楽とは誰だったのか、という問題に直面することになります。
息子の事故を通じて知り合った、片桐教授や、出版社の常世田、様々な専門家の人たちなど、いろいろな協力者と共に、佐藤がたどり着いた結論とは・・・
その結論は、確かにびっくりするような、今までにない説でした。
島田先生が20年も考察し、丹念な調査によって導かれた仮説です。
たしかにそうかもしれないと思わせるほどの説得力です。
でも、結局この謎は、永遠に解けないのでしょうね。
なにしろ資料が少なすぎます。
もちろん、これは小説で論文ではないのですから、自由に意見を述べて構わないのですが、やはりあくまでも仮説にすぎないという気持ちが読む側にもあって、なかなか気持ちが乗ってこれないというのはありました。
また、あとがきで先生ご本人が、長すぎて一冊の小説に収まり切れなかった、とおっしゃっています。
たしかに、いろいろな問題が解決されないまま残ってしまっている感がありました。
特に、現代の佐藤に関するいろいろなこととか。
その分、写楽に対する考察が膨大だったということでしょう。
先生は続編を書きたいと思われているようです。
勉強になることもたくさんありました。
知らなかったのですが、この時代の印刷技術を考えるとたしかにそうなのですが。この時代は全部絵じゃなくて、版画だったということです。
なので、まず下絵があって、それを写してから、彫師が彫って、摺師がすって・・・とそれぞれの専門家がいるのです。
なので必ずしも出来上がったものは下絵通りではなかったようです。
写楽の絵も、写楽1人だけではなく、いろいろな人の手を経て出来ているのです。
また、長崎の出島から、江戸まで将軍に謁見するためにやってくるオランダ人の一行の様子とか、当時の貿易の様子とか。
厳しい監視の目が合って、全く自由に動けなかったようですね。
また、将軍に謁見と言っても、将軍本人ではなく、徳川御三家の中から誰かが出る、という感じだったようです。
また、江戸の人たちが、いかにして歌舞伎を楽しみ、またその興行のにぎやかで楽しそうな様子がよくわかって面白かったです。
ものすごく華やかで、一大イベントだったのですね。
江戸っ子っていうのは粋で、楽しむことがとても上手だったのですね。
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