日暮らし(上)(中)(下) 宮部 みゆき
2008年11月14日 講談社文庫
「ぼんくら」シリーズかと思いきや、思いっきり続編です。
ぼんくら4・5・6巻とした方がわかりやすいかも。
メンバーは相変わらずで、新しいメンバーもたくさん出てきます。
今回は、ずいぶん佐吉がかわいそうな目にあってしまうのですが、お恵といういい奥さんをもらってよかったです。
そして前回は名前しか出てこなかった、佐吉の母であり、この物語の陰の中心人物と言っていいであろう、葵がついに姿を現します。
意外にもその実像は、心優しく行動力もあり、今は身体を壊してちょっと隠居せざるを得なくなっていますが、以前は上方でちゃきちゃきと商売をしていたりと、なかなか魅力的なのです。
昔の事件でてっきり、ひっそりと引きこもって隠れて暮らしているのかと思いきや、どうしてどうして、積極的に人生を送っていましたね。
しかし、ここまで苦労しながら生きてきたのに、つまらない理由であっけなく殺されてしまいます。
何という運命の皮肉・・・。
そして湊屋の長男、宗一郎も登場します。
力のある父親を持つボンボンというのは、ダメな道楽息子が多いのですが、宗一郎はなかなかどうして立派な人物なのです。
そしてとても、孤独でかわいそうな人でもあります。
平四郎は、自分が彼の立場なら、わざと思い切り道楽して仕返ししてやるのにと思いますが、心優しくマジメな宗一郎にはそれができません。
平四郎は、両親や葵に振り回される佐吉や宗一郎を見て歯がゆく思うと同時に、それに引き換え女たちはなんてたくましいんだと感心します。
けっして運命に甘んじない葵や、間違った方向ではあっても何とか生き抜いていこうとするおみねなどのことを指しています。
そう、いつの世も女はたくましいのですよ。フフフフ。
このお話を読んでいると、江戸の食べ物事情がよくわかります。
お徳の煮売屋で売っているおいしそうな煮物、そして煮売屋からお菜屋(おかずや)へと発展し、仕出しまでいくと結構立派な店になるようです。
そして町では甘いものもたくさん売っていたようです。
お饅頭とか、団子とか、甘酒も樽に入れて売りに来るのもあれば、お店で売っているのもあったようです。
水あめや焼き芋もあったらしいですね。
江戸というのは、にぎやかで楽しい町だったようです。
まあ、「花のお江戸」という言葉もありますしね、日本一の繁華街だし、きっと人も町も生き生きしていたのでしょう。
しかし貧富の差はやはり激しかったようです。
大きな商家のおぼっちゃまである、平四郎の甥、美少年弓之助は、事件の目撃者である女の子の家を訪ねて、そのあまりの貧しさにびっくりします。
畳の一枚もなく、隙間風は吹き込みまくり、土間は狭く汚れ、そこにやせこけた鶏がよろよろと歩いています。
さらに、自分の家なら雑巾にしてしまうようなぼろ布を家族で着ているのを見てショックを受けます。
物事には全て表と裏があるということを弓之助は学ぶのです。
そんな弓之助に平四郎は優しく言います。
「この世のことを、おめえ一人で全部背負い込むわけにはいかないんだよ」
そしてこの殺人事件が解決した後、平四郎は思います。
「一日一日、積み上げるように。てめえで進んでいかないと。おまんまをいただいてさ。
みんなそうやって日暮らしだ。
積み上げてゆくだけなんだから、それはとてもやさしいことのはずなのにときどき間違いが起こるのはなぜだろう。
自分で積んだものを自分で崩したくなるのはなぜだろう。
崩したものを、元通りにしたくて悪あがきするのはなぜだろう。」と・・・。
今回も、江戸人情溢れるいい作品で、大満足できました。
ただ、この作品を読んでみたいなと思われたなら、ぜひ「ぼんくら」から読んでくださいね。
そうしないと、面白さが半減してしまいます。