ローマ人の物語 パクス・ロマーナ① 塩野七生
2014年8月22日 新潮社 kindle
ここ数日、ブログの方を少しお休みさせていただいて読書に集中。
蓄積を増やすため頑張ろう・・・と思ったのですが、この「ローマ人の物語」でほとんど終わってしまいました。
だって長いんだもん、この作品・・・。面白いからいいですが。
それはともかく、さてようやく「ローマ人の物語」もここまできました。
ようやくローマも、カエサルの時代までの、戦争戦争、また戦争の時代が終わり、平和への道が開かれ始めました。
今回の巻は、今までの「これからどうなる?」的なハラハラドキドキはありませんが、ローマの転換期に差し掛かった非常に重要な時期について書かれています。
アウグストゥス
18歳で突然ユリウス・カエサルより後継者に指名されたオクタヴィアヌス。
エジプトでアントニウスとクレオパトラを破った後、本格的にローマで最高指導者としての務めを果たしだします。
彼はカエサルのように、真っ向から元老院と勝負をしませんでした。
一見、元老院中心の共和政を貫くように見せかけながら、着実にすべての権力を自分のものにしていき、初代皇帝となるのです。
元老院は最初全く気付かずオクタヴィアヌスを歓迎し、「アウグストゥス」という尊称を送りました。
アウグストゥスはひたすらローマのため、法律を整え、様々な改革をし、周りの防衛を固めることに全力を注ぎます。
ホントにこの人の18歳~77歳の生涯は、ただただ自分の利益ではなくローマのために生きたものでした。
彼はローマのために、相当の私財もなげうっています。
ところで知りませんでしたが、ローマの有力者は「ノーメンクラトール」という役割の奴隷をいつも連れてい歩いていました。
有力者というのは、いろいろな人と関わりを持たねばならず、道を歩いているだけでたくさんの知人と出くわし、みんな挨拶してきたり話しかけたりしてきます。
でもそんな人の名前と顔なんて、全て覚えていられるわけがありません。
それを代わりにやるのがこの「ノーメンクラトール」で、例えば誰かが向こうから歩いてくると、ノーメンがそっと主人に耳打ちします。
そして有力者は悠然と、「やあ、○○君、元気かい?」といかにもよく覚えていますよというように会話ができる、というわけなのです。
有力者になればなるほど関わる人も多くなりますから、これはなかなか大変な仕事ですね。
間違えば、主人の顔に泥を塗ることになりますし。
アウグストゥスのノーメンクラトールなんて、相当大変だったでしょう。
アウグストゥスは周辺の防衛も、外交によって解決していきました。
正にパクス・ロマーナ(ローマによる平和)の時代が来たのです。
アグリッパとマエケナス
アウグストゥスには、2人のなくてはならない親友がいました。
1人は、アグリッパ。
この人はカエサルに見いだされ、アウグストゥスのそばに置かれ、戦争の苦手なアウグストゥスの代わりに優れた武将として活躍しました。
また、最初の夫に早くに死なれたアウグストゥスの一人娘ユリアと、離婚してまで結婚し(アウグストゥスがそうして欲しいと言ったからでした)5人の子供をもうけました。
涙ぐましい・・。
もう1人は、マエケナス。
彼は軍事面以外でのアウグストゥスの良き相談相手となり、どちらかと言えば話下手な彼の代わりにいろんな場所で交渉などして活躍しました。
ところがこの2人、意外と早くに死んでしまうのです。
アウグストゥスのショックは相当なものだったようで、どうもそこから彼の運命も寂しいものになっていったようです。
ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法・正式婚姻法
アウグストゥスの政策で、今の価値観からは考えられないものがあります。
当時ローマは少子化に悩んでいました。
人々は、子を産み育てることの他に、快適な人生の過ごし方が増えたのです。
独身をとおしても家事は奴隷たちがしてくれるし、今でいう執事のような役割のアトリエンシスという役の奴隷がしらが全てに目を光らせていてくれます。
女性も、夫を亡くしたり離婚したりで独身に戻ったとしても、たいして不都合はなかったのです。
まあ、子供がいない=将来の兵士がいない、ということになるので死活問題だったのでしょうが・・・。
アウグストゥスが正式な結婚を推奨し、子供をたくさんもうけさせるために作ったのが「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法」と「ユリウス正式婚姻法」でした。
まず「姦通罪」ですが、要は姦通は公的な犯罪になったのです。
姦通があった場合、夫や父に限らず市民のだれでも告訴することが可能になり、また姦通を知りながらその事実を隠したり放っておいたりすると、これもまた罪になります。
そして「婚外交渉罪法」によって、女性との(奴隷や娼婦は除く)あらゆる性的関係も公式な犯罪となりました。
そして「正式婚姻法」。
これは要するに、どんどん正式な結婚をしろ、独身は犯罪だ、結婚したら子供は産みまくれ、産まない奴は犯罪者、何ダンナが死んだ?すぐ再婚しろ、再婚しない奴は財産を没収してやる、という意味合いの法律でした。
まず独身は、社会面や税制面、キャリアの面でも徹底的に不利になりました。
子供が多ければ多いほど優遇されました。
未亡人の場合でも、子がなければ一年以内に再婚しないと独身並みに扱われます。
それから年齢の離れている者同士の婚姻も、禁止ほどはいきませんでしたが不利でした。
要は子供が産まれにくいということからでしょうね。
しかも、子を持たない独身女性は50歳を超えるといかなる相続権も認められず、資産まで没収されました。
さらに独身税といってもよい税金まで取られました。
子供を産むということでローマに尽くさなかったのだから、その代り金を払え、ということのようです。
そしてこの不利を解消しようと思ったら、なんとか夫を見つけて結婚し、子供を最低3人は産まなければならないのです。
そんなにそんなに産めるかっ!!!
種馬じゃねえんだよっ!!!
そしてそして、離婚は、できないことはありませんでしたが非常に手続きがめんどくさく、やりづらくなりました。
そしてそしてそして。
アウグストゥスは不倫を嫌ったのか、厳罰を与えています。
夫のある人と不倫をした女性は、資産の3分の1を没収されたうえ、島流し、つまり永久追放となりました。
もうローマ市民との再婚もできません。
しかし、男性の方は、おとがめなし!!!
が、相手が夫ある女性ならば、不倫ではなく強姦罪に問われたとのこと。
不倫も命がけの時代となったのです。
そんなこと言ったら、ほぼローマ中の人妻と不倫していたユリウス・カエサルはどうなる?
何回、極刑を受けることになるのやら。
しかしなんだ、この女性蔑視甚だしい法律は!
子供なんて、欲しいと思ったって望み通りできない場合だって多いんだから。
アウグストゥス自身だって、結局実子は1人だけのくせに!
自分のことは棚のそのまた上にあげて、何を言うのかこの人は。
が、この法律、修正を加えながらですが、意外とながーく続くのです。
やっぱり当時の価値観なんですかねぇ・・・。
そしてこの法律は、発案者アウグストゥス自身にやがて大きな災いを引き起こします。
さて、アウグストゥスのパクス・ロマーナへの道、まだまだ続きますが、長いので次回へ。