蜩ノ記(ひぐらしのき)葉室 麟
2011年11月10日 祥伝社
2017年に亡くなられた、葉室麟(はむろ りん)先生の作品。第146回直木賞受賞。
10年後に切腹を命じられた侍の生き様です。主人公は、静かに自分の役目を務めながら、その日を迎えようとしています。
そして、農民と侍、侍と癒着する商人、この解決されない問題が根深くそこにありました。
なぜ、切腹を命じられたのか・・・もちろんこの方、何にも悪いことはしていません。要は、藩の権力争いに巻き込まれただけなのです。
人の命が軽く扱われ、いとも簡単に腹を切らされ、それに対して抵抗することも許されなかった時代。
それでも主人公、秋谷(しゅうこく)はその運命を受け入れ、その日までの日々を淡々と過ごします。
その監視役として派遣された、若き侍、庄三郎は秋谷のそばについて、彼と一緒に仕事をし、共に暮らすことで、どんどん秋谷にひかれていきます。
それにしても、切腹を待っている人と一緒に過ごすというのは辛いですよね。庄三郎も苦しみます。
でも若くてまだ半人前だった庄三郎は、秋谷と接することでどんどん大人になっていきます。
また、10年後っていうのがいやらしいですよね。なぜ10年後かというと、藩主の家の歴史の編纂を命じられ、それを10年で仕上げてから死ねというわけです。なんだよそれ、という感じですが。
全体的に穏やかな物語かと思いきや、意外とそうでもありませんでした。江戸時代の特徴の一揆、農民寄合、賄賂、拷問などがふんだんに出てきます。
そして、嵐の過ぎ去った後は、ラストに向かって物語は静かに流れていきます。ネタバレになってはいけないのであまり書けませんが、秋谷の周りの人々には穏やかな幸せが待っています。
秋谷の息子は、きっと素晴らしい武士になるに違いありません。そして庄三郎も・・・。
じんわりと自然に涙がこぼれました。
秋谷の「武士とは、藩と領民のために命を差し出すもの」という心情が心に残りました。
それにしても、葉室先生、ずいぶん早く亡くなられてしまいました。残念です。