咲紗の、本とチワワとコーヒーと ~愛すべき本たちとの日々~

読書大好き咲紗が、読んだ本の感想やご紹介をしていきます

ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち⒄~⒇ ②  塩野 七生

2005年9月1日  新潮文庫

さて、続きです。

4代目皇帝 クラウディウス

クラウディウスは、3代目皇帝カリグラの叔父にあたり、ゲルマニクスの弟でした。

カリグラが殺されたとき、彼は思いがけず皇帝にまつりあげられましたが、この時すでに50歳。

子供の時小児マヒを患ったらしく、肉体上の欠陥があったことと、ドモリの癖がありました。

そのため、いじめられっ子でもあったらしく、兄のゲルマニクスがかばっていたようです。

容貌も、美形ぞろいのアウグストゥス一族の中では、彫刻を見ただけでもかなり残念な感じです。

そんなわけで周りも、そして本人も、皇帝になるなどとは夢にも思っていませんでした。

現にティベリウスは、クラウディウスではなくまだ若いカリグラを後継者にしました。

クラウディウスは静かに、好きな学問をして、学者として暮らしていました。

しかし責任感は結構あったらしく、皇帝になったら覚悟を決めたのか、仕事はがんばりました。

カリグラによってメチャメチャになった財政と外交を、なんとか修正しました。

が、彼の場合、良くなかったのはクラウディウス本人ではなく、2人の妻でした。

1人目、メッサリーナは夫が皇帝になった時、まだ16歳。年の差夫婦でした。

思いもかけず権力を手にしたことにすっかり舞い上がってしまったのは、まあ無理もありませんが、妻がちょっとギャーギャー言ったらイヤになってすぐ好きにさせてしまったクラウディスにも非がありました。

メッサリーナは夫を操り、贅沢三昧、人のものまで、その人を殺してでも手に入れ、気に入らない人間も殺しまくりました。

クラウディウスも、妻が「あの人処刑して」とちょっとうるさく言ったらすぐ「ハイハイ」と処刑の書類にサインをしてしまい、ふと「あれ?あの人どこ行った?」と気づいたときには処刑されていた、ということもよくあったようです。

処刑される方はたまったものではありません。

また、年上で肉体上の欠陥もある夫に満足していなかったのでしょうが、皇帝の妻なのに、街の娼家に入り浸り、客を取っていたとのこと。

皇帝の妻は、一体いくらだったのでしょうか・・・。想像するのも嫌ですね。

夫は恥のかきっぱなしですが、気づいてなかったんでしょうか。

そしてついにメッサリーナはとんでもないことをやらかします。

なぜか、浮気相手と結婚してしまったのです。

もちろん、当時のローマでも重婚は大罪。

まあ、夫は殺すつもりだったのでしょうが、それにしても、殺してから結婚すればいいのに、何を間違えているのでしょうか。

バカ丸出しですねぇ。

さすがに、周りの人たちがクラウディウスに言いつけ、メッサリーナは破滅。

クラウディウスはそれでもすぐ処刑せよとは言わなかったのですが、周りのものが皇帝の意向など待たず、サッサと殺してしまいました。

そしてクラウディウスは、周りのものが勧めるがままに再婚します。

その相手が、これまた良くなかった。

2人目は姪にあたり、カリグラの妹であるアグリッピーナ

母親と同じ名前であるので、小アグリッピーナと呼ばれることもあるようです。

まったく、昔のローマ人の女性の名前の付け方はほんとにいい加減なんだから。

このアグリッピーナ、メッサリーナと違って頭は悪くなかったのですが、なにしろ野望の塊でした。

夫に先立たれ未亡人でしたが、この先の夫との間に産まれたネロを皇帝にするため、ありとあらゆる策略を練りました。

それがことごとく成功し、最後にはクラウディウスを毒キノコでぶち殺し、ネロを皇帝の座につけました。

哀れなクラウディウスは、皇帝としては彼なりに一生懸命やったのですが、彼の不幸は妻をコントロールできなかったことでした。

がんばった割には、ローマ市民から尊敬されることもなく、その死を悼まれることもなく、殺した妻も罪に問われることはなく、その一生を終えました。

5代目皇帝 ネロ

皇帝となった時、ネロはまだ16歳でした。

カリグラは24歳でしたが、それよりももっと若いまだ子供のような皇帝でした。

当然、全てにおいて母親がしゃしゃり出ます。

アグリッピーナは権力を手に入れ、得意絶頂にありました。

ところが、なんとネロに反抗期が来ます。マザコンではなかったのですね。

きっかけは、初恋の人をアグリッピーナにくそみそに悪く言われたことでした。

アグリッピーナによって、好きでもないオクタヴィアと結婚させられていたネロは切れます。

アグリッピーナに反感を持っていた周りのものも、ここぞとばかりにネロの肩を持ちます。

アグリッピーナはだんだん追い詰められ、ついにネロによって皇宮から追い出され、あっという間に権力を失います。

が、そんなことで負けているような女ではありません。

あらゆる手段でネロに反逆しようとします。

上品な塩野先生は書いていらっしゃいませんが、諸説によるとアグリッピーナはネロを自分から離れされないために、女として誘惑したとのこと。

しかしそんなおぞましい近親相関の関係も、ネロはすぐイヤになってしまいます。

しかもそんなことするから、一旦イヤになると徹底的にイヤになったんでしょうねぇ。

母親を憎みまくったネロは、母を殺させようとします。

まず、底に穴の開いた船に乗せて湖に沈めようとしたのですが、なんとこのアグリッピーナ、泳ぎの達人でした。

何事もなく泳いで助かったアグリッピーナのことを知ったネロはびっくり仰天。

慌てて部下たちを母親の家にやり、アグリッピーナは剣でめった刺しにされ殺されます。

ようやくほっとしたネロですが、母親殺しはローマでも重罪。

ネロ自身も母親の幽霊に悩まされる日々を送ったようです。

その後ネロは、妻のオクタヴィアを離婚し、流刑にした挙句に殺してしまいます。

おとなしい奥さんだったそうですが、ちょっとひどすぎます。

ネロはその後、その時好きだった女性と結婚しました。

このことはローマ市民の怒りを買いました。

母親を殺し、妻まで殺したネロは、実は計算違いをしていました。

自分が皇帝でいられるのは、アウグストゥスの血をひいているアグリッピーナと、オクタヴィアがいたからでした。

自分自身はクラウディウスの養子であり、皇帝でいられる正当性が無くなってしまったのです。

ローマ市民と元老院は、ネロを白い目で見るようになります。

それでも最初のうちは何とか頑張ったネロでしたが、所詮は甘やかされたボンボンにすぎません。

ギリシア文化にかぶれていたネロは、才能もないくせに自分を芸術家として売り込み、大会に出て歌を歌っては優勝して得意になっていました。

そりゃ下手でも優勝させざるを得ないでしょう、皇帝だから。

優秀な部下も、突然自殺させたりします。

ローマが大火に見舞われたとき、復興に力を尽くしたまでは良かったのですが、「ドムズ・アウレア」という私邸を造ろうとしていた時期と一致し、そのために土地が必要だったネロがローマに火をつけたという噂が立ちました。

真偽のほどはわからないそうですが。

しかしボンボンネロは、自分自身が悪く言われることに耐えられません。

疑いを自分からそらすため、嫌われ者だったキリスト教徒がやったことにして処刑しまくりました。

その処刑の残虐さはものすごく、ネロは処刑を一種の見世物として市民に公開し、キリスト教徒こそが犯人ということを印象付けようとしました。

これが、「暴君ネロ」と呼ばれる所以になったようです。

キリスト教徒を迫害し、虐殺した人はほかにもたくさんいますが、キリスト教徒は今でも、この「暴君ネロ」を激しく憎んでいるそうです。

そんなことをしているため、ついに元老院から決起を起こされ、あっという間にその地位を追われたネロは、奴隷にまで見捨てられ、逃げようとしたとき周りにいた人はたったの4人。

「国家の敵」とされたネロは、自死に追い込まれます。30歳でした。

こうして、アウグストゥスから5代続いた皇帝時代は終わりを告げました。

世襲制というのは、後継者問題で一族同士殺しあうことになりますし、能無しでも周りの力が強ければ皇帝になれてしまいます。

本当に日本の江戸時代とよく似ていますね。

さて、新しい時代に入っていくローマですが、どうなっていくのでしょうか。

続きをお楽しみに。



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