咲紗の、本とチワワとコーヒーと ~愛すべき本たちとの日々~

読書大好き咲紗が、読んだ本の感想やご紹介をしていきます

三鬼 三島屋変調百物語四之続  宮部 みゆき

2020年5月22日  角川文庫

待望の「百物語」シリーズ、第4弾。

今回もやっぱり素晴らしい。

宮部先生の作品の中でも、もはや貫禄の域に達しているこのシリーズ、期待を裏切りません。

600ページ以上の大作でしたが、あっという間に読んでしまいました。

今回のおちかの成長は目覚ましいものがあります。

一話目は、13歳くらいの女の子が語り手なのですが、まだ子供なのでうまく話せないところを、上手に誘導して話させます。

二話目はなんと、おちか自信が興味を持った話を、その話をしてもらうため当人を呼ぶという、いわばスカウトです。

4話目は、話の謎を解くためおちか自らが行動します。このパターンは2回目です。

だんだん百物語の聞き手として熟達していきます。

さらに商売の取引も成功させるなど、将来のお店のおかみさんとしての商才も見せます。

いや、おちか素晴らしい、かっこいい。

一話目は、死者を呼び戻すことに魂を奪われてしまった哀れな絵師と、その村で起こった悲しい出来事。

二話目は大爆笑ものです。

このシリーズは深刻なものと、面白いものがあるのですが、二話目はほんとにほのぼのしていていいです。

食べることが大好きな「ひだる神」に取りつかれた煮売屋の房五郎。

彼はひだる神さんのおかげと、自分自身の努力により弁当屋を大繁盛させます。

ひだる神というのは、取りついた人と一つになって、その人の食べたものをみんな吸収します。取りつかれた人はそのせいで大食いになりますが、別にそのせいでなにか身体に異変があるというわけではありません。

房五郎とその女房お辰は、ひだる神を大切にします。

このひだる神さん、特にウナギが大好き。

房五郎の考案したひつまぶし弁当が大好物でした。

ところがなんだかだんだん、家が壊れてきているのに房五郎は気づきます。

おいしいものをたらふく食べすぎたひだる神が、太りすぎで膨れ上がり、家が重みで耐えきれなくなったのです。

神様も太るんですねぇ・・・。

それに気づいた房五郎夫婦、大繁盛中の店まで閉めてひだる神の強制ダイエット。

今まで好きなだけウナギを食べていたのが、いきなり菜っ葉を浮かべただけのおかゆになったひだる神。

朝から晩まで「ぐずぐず、めそめそ」泣いて房五郎を困らせます。

さてさてそれでどうなるか・・・、という楽しいお話なのです。

三話目は、表題でもある「三鬼」。

栗山藩の江戸家老を務めていた立派な武士、村井清左衛門の話です。

栗山藩は土地柄も悪く、藩主の失政のためあまりにも貧しく、清左衛門も江戸家老という立場ながら、白湯しか飲んだことがないとのこと。

当然のようにお茶でおもてなししたおちかが、それを聞いてびっくりするシーンがあります。

おちかは町人ながら江戸の裕福なお店のお嬢様、清左衛門は武士ながらお茶はぜいたく品という貧しい身の上。

武士と言えども辛い立場の清左衛門は、若い時に、妹の身に起きたあまりにも理不尽でひどい事件のため、さらに貧しい山奥の雪深い寒村に派遣されることになります。

そこはもう貧しいなんてもんじゃなく、3年の任期後、果たして生きているかどうかというレベルのものでした。

そしてそこの村人たちは、寒村ゆえ罪人関係や流れ者が多く、貧しさのあまり生きるだけで精一杯、心も閉ざし、どことなく異様な雰囲気でした。

貧しいということが、こんなにも辛いのか。貧しさは人の心も貧しく、ゆがめてゆきます。

この村の人々の心もあまりの貧しさに、そこから脱出する気力も、何とかしようとする気力もなく、ただ亡霊のように生きるのみ。

そしてそこに現れる「鬼」。清左衛門は、同僚の利三郎とともにその鬼の正体を探ろうとしますが・・・。

表題の「三鬼」の「三」は「山」ではなく、三番目のあの世に近いところから来るのも・・・の「三」なのだそうです。

救いのない貧しさと、そこから生じる鬼。あの鬼はまさしく人の心が生んだものです。

でも最後、あまりにもひどい目にあわされた妹の志津と、利三郎が幸せになってよかったです。

利三郎は短気でどうしようもない面もあるけど、根は情が深く、男気のある人です。

私も結構好きですね。

清左衛門は最後切腹しますが、その介錯人まで務めたのですから、二人の友情も深いものだったのでしょう。

四話目で、おちかの従兄の富次郎が初登場。伊兵衛とお民の息子だけあって、いい人です。

そしておちかが好意を持っている青野利一郎が江戸を去ってしまいます。

おちかは四話目の話と、自分の幸せを願ってくれる利一郎のため、今まで心を閉ざし引きこもっていたのをやめ、前を向いて生きていくことを決意します。

四話目の語り手、14歳で時が止まってしまった老婆、お梅のようになってはならない。

残るのは後悔だけなのです。

お梅も、姉への想いのために自分の人生を捨ててしまいますが、やはり後悔だけが残りました。

時は止めてはならない、前へ動かさなくてはならないのだ。そう気づいたおちかの運命は、次回大きく動くことでしょう。

このシリーズ、ますます目が離せません。

一話一話、深刻なものも辛いものも、楽しいものもすべて、心にじっとりと染み渡るこの作品。

正に宮部先生の傑作と言っていいと思います。



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