小暮写真館(上)(下) 宮部 みゆき
2013年10月16日 講談社文庫
大好きな宮部みゆき先生の作品で、これは現代ものです。
全体的に穏やかなムードで話は進みます。
主人公、高校生の英一一家は古い写真館であった家を買いますが、父親のユニークな趣向で看板をそのままにしておきました。
すると、そこが写真館のままであると勘違いした(そりゃするわな)女子高生がやって来て、英一に不思議な写真を見せます。
この写真館で現像されたものだとのこと。
見ると確かに、まるで心霊写真のような不思議なものが写りこんでいる写真でした。
英一はその写真について調べていくことになります。
そしてその縁で、人のいい不動産屋さんや、そこで働く愛想が悪いがなぜか心惹かれる女性、学校の友人たち、そのほかいろいろな人と出会います。
またその写真館は、おじいさんがひとりでやっていた写真館ですが、そのおじいさんの幽霊が時々目撃されるとのこと。
その幽霊(?)は、思いがけず家族を救ってくれることになるのですが。
いろいろな小さな謎を解いていくことによって、英一はどんどん成長していきます。
そして彼自身の家庭での傷・・・小さな妹を急病で失ったことによる家族の傷と向かい合っていきます。
一見明るく生活している一家ですが、目をつぶってみないようにしている大きな闇がやはりあるのです。
その中で英一は自分自身の傷、小さな弟がひとり抱えていた傷、親戚と断絶した両親の傷・・・それと真正面から向き合うことによって、前に進もうとします。
人はどんなに平和に暮らしていても、必ず何か抱えているものがあります。
必ず不幸な出来事というのは、大なり小なり起こります。
でもそれと向き合って生きるしかない、英一はそれに気づき見違えるように大人になっていきます。
彼ならきっと、優しい心と信念をもって生きていくでしょう。
出会った人たちとの縁を大切にしながら。
彼の出会う写真は不思議なものですが、決して心霊写真ではありません。
英一も謎解きではなく、ただその背景にある事情を調べるだけなのですが、彼のその心が、周りの人たちをも救っていきます。
写真館の元の持ち主のおじいさんの幽霊とも、決して祓おうともせず共に暮らしていくことを選びます。
おじいさんの過去を紐解くことによって、写真館を開いた理由、どのようにして戦争中の出来事を抱えながら生きてきたのかを理解したからでした。
ほんわかとした、しっとりと心に残るいい作品でした。
そして・・・青春ってやっぱりいいな、と思うのです。
英一と、その友人たちとのやり取りや、学校生活などが生き生きと書かれていて、とても素敵なのです。
私は、心優しいクモテツのメンバーたちがとても好きです。
でもこの英一のお父さん、写真館をそのままにして住もうというところ、やっぱりちょっと変わってますよね。
暗室も、カウンターもそのままなので、写真館と間違われることたびたび。
なんかかえって住みにくいんじゃないかと思うんですが、ご本人はご満悦なのでまあ、いいとしましょう。
今ではこういう古い感じの写真館というのは、めっきり少なくなりましたね。
スマホで簡単に何でもできてしまう時代、写真館で写真を撮ってもらったり、フィルムを持って行って現像してもらったりなどはあまりしなくなりました。
このお話を読むと、少し懐かしい気持ちになります。