とっぴんぱらりの風太郎 万城目 学
2013年9月30日 文藝春秋
実に700ページ以上もの大作です。
そして、素晴らしい作品だと思います。
最初、題名や最初のころの数章から、てっきりのんびりしたユーモアあふれる楽しい話だと思っていました。
ところが、戦が始まったあたりから急に陰惨になっていき、どんどん深刻に、そして最後はかなり悲劇的な結末を迎えてしまいます。
まあ確かに、大坂冬の陣・夏の陣が舞台なのですから、楽しいはずはないですね。
ただ、こういう結末というのはあまりないパターンかもしれません。
しかも一人称なのに。
主人公の忍者、風太郎はちょっとした失敗から忍者としての仕事を失ってしまいます。要はクビ、ということです。
仕方なくぶらぶらと暮らしていましたが、ひょうたんをきっかけにして、どんどん事件に(というか戦に)巻き込まれていきます。
まー、とにかくこの作品、ひょうたんひょうたん、またひょうたん・・・まさにひょうたんづくしです。
私の人生でここまでひょうたんが出てきたことはかつてありません。
ひょうたんって育てるのがあんなに大変とは知りませんでした。
風太郎もとても苦労してひょうたんを育てる羽目になります。
あんな手間のかかるひょうたんを一個ずつ育てていたのですから、昔の人ってホントにえらいですねぇ。
またこれも私の不勉強ですが、ひょうたんは豊臣秀吉の馬印だったそうです。
馬印とは、戦国時代の戦場で、大将のそばに立てて目印とした武具だそうです。
そしてこの作品、最後は「プリンセス・トヨトミ」につながっていくそうです。
以前「プリンセス・トヨトミ」は読んだことがありましたが、つながってるなんてどこにも書いてなかったし、知っていたらこっちを先に読んだのに・・・。
でもこの作品が素晴らしいことには変わりがありません。
今でこそ忍者は人気がありますが、実際は本当に悲しいものであったことがよくわかります。
自分の運命を決めることもできず、ただただ命令に従うのみ。
逃げても待っているのは死だけ。
捨て子だった風太郎は忍びとして育てられ、ほかに生きる選択肢などありませんでした。
もちろん仲間たちも同じです。
忍びをクビになった風太郎のことを仲間はうらやましがります。
しかし忍びの世界しか知らない風太郎は、どう生きればいいのかわかりません。
ようやく芥下と一緒にひょうたん屋をやろうとしたのに・・・。
風太郎、黒弓、蝉、常世が何の得にもならないことに命を懸けたのは、ひとえにひさご様の魅力でしょう。
ひさご様ーつまり秀頼ですが、この秀頼、昔はバカなボンボンと思われていましたが、どうも家康も恐怖を感じるほどの優れた人物であったということがわかってきたそうです。
だから豊臣家はつぶされてしまったのだとのこと。
なんか身長も、190㎝くらいあったとか。当時としては(いや今も)相当の大男ですよね。
おばあさまにあたる信長の妹、お市の方が、当時の女性としては背が高かったそうですから似たのでしょうか。
この作品のひさご様も、愛すべき優れた人物として登場します。
風太郎たちは、彼の遺児を守るために、一人また一人と死んでいきます。
ひさご様ももちろん炎の中で自害します。
そして最後は・・・号泣です。
ひさご様の遺児は、ただ一人そこに加わらなかった百に託されます。
そしてそれが「プリンセス・トヨトミ」につながっていくのです。
かなりの感動作、お勧めです。
ただ、この作品と「プリンセス・トヨトミ」のどっちを読もうかと迷っている人は、こちらにしてくださいね。