ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後⑤ 塩野 七生
はい、続きです。
アントニウスがクレオパトラを呼び出した目的は、自分の味方につけることだったのですが、なにしろ相手はあの聡明なことで有名な女王様。
アホ極まりないアントニウスが太刀打ちできるわけはありませんでした。
おそらくクレオパトラはアントニウスを一目見た時、そのアホさ加減を一瞬で見抜いたと思われます。
アントニウスを自分の思うがままに操るまでに、全く時間はかかりませんでした。
すっかりクレオパトラの犬と化したこの男は、言われるがままに、ローマに奥さんがいるにもかかわらずクレオパトラと重婚しました。
挙句の果てに子供も3人ももうけたのです。
ちなみにこのアントニウスの奥さんというのは、なんとあのオクちゃんの姉、オクタヴィア。
ローマの女性の鏡ともいうべきこの女性は、裏切られてもアントニウスをかばい続け、彼の力になろうとします。
当然オクちゃんは怒り爆発。そりゃそうでしょう。両親を早くに失い、オクタヴィアと共にカエサルの家で育てられたので、オクちゃんにとってオクタヴィアは大切な姉でした。
その姉を裏切り愚弄する行為を続け、最終的には一方的に離婚宣言。オクちゃんの怒りはもっともです。
浮気者アントニウスは、自分の管理下にあるローマ属州はすべてクレオパトラにやる、と宣言してしまいました。
もちろんそんなもの彼がひとりで言っているだけで何の効力もありませんが、このローマをないがしろにした行為に、ローマ市民は完全にアントニウスを軽蔑しました。
怒りよりも、開いた口が塞がらないという感じだったようです。
ところでクレオパトラのあのおかっぱの髪型は、エジプト古来の祭祀の時のものだったようで、普段はギリシア式の髪型だったようです。黒髪でもなかったようですね。
そしてついにオクちゃんとアントニウスの決戦となります。
アントニウスはまたまた愛するクレオパトラの言いなりで、アホな行為を繰り返し味方にも見放されました。
朝起きるたびに、味方がゴソッゴソッと脱走していっていたそうです。
そしてついに自殺。クレオパトラも追い詰められ、必死でオクちゃんに、せめて子供はエジプトの王のしてくれと懇願しますが、オクちゃんは冷笑しながら一言。
カエサルとの間の男の子はもう殺した。アントニウスとの3人の子供はもうローマのオクタヴィアのところへやってしまった、と。
最後の希望もたたれたクレオパトラは自殺します。
哀れと言えば哀れですが、自業自得ですな。
クレオパトラにはものすごく忠実な部下がいました。
彼は、クレオパトラが弟王に追われて砂漠に逃亡した時もそばにつき、敷物に彼女を入れてカエサルの元へ連れて行った人でした。
この人はその後もずっとクレオパトラを守り続け、彼女の死を見届けた後、剣を口にくわえて高いところから飛び降り、壮絶な死をとげます。
クレオパトラもこの忠実な部下を、生涯信頼し続けたそうです。
しかしここまで来るのに、カエサルの死後から14年かかりました。
ようやく落ち着き、オクちゃんの時代がやってきます。
しかし、カエサルほどの人物はもはやこの先も現れないでしょう。
そして、本当に「事実は小説より奇なり」
映画より面白いです。こんな面白い時代があったのですね。