ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後➂ 塩野 七生
2014年7月25日 新潮社 kindle
さて、続きです。
ローマに帰ったカエサルは、終身の独裁官となり、様々な改革に乗り出しますが、まずはポンペイウス軍の残党をアフリカで倒さなければなりませんでした。
それもようやく終わり、ローマでそれはそれは華々しい凱旋式が行われました。
凱旋式というのは、ローマの武将にとっては最高の栄誉です。
まことに素晴らしい式なのですが、ひとつ面白いことがあります。
兵士たちがカエサルを更新の途中で、皆でシュプレヒコールでからかうのです。
「市民たちよ、女房を隠せ。ハゲの女たらしのおでましだ!」
これは、あれほどまでに尊敬し、命を懸けてついていったカエサルに対して、決してバカにしているのではなく、神々や精霊がこの素晴らしい式に嫉妬して、悪運をもたらさないようにするためなのです。
日本でも、中国でも同じような風習があります。もしかしたら世界中にもあるかもしれませんね。
ただカエサルは、「ハゲ」というのはちょっと気にかかったらしく、文句を言ったらしいのですが、兵士たちが聞く耳を持たなかったらしいです。
かっこいいカエサルもややオデコが広がってきていたのを気にして、必死で髪型で隠そうとしていたらしいのです。
昔は、カツラなんてありませんからねぇ。でもちょっとかわいい♪
そしてカエサルはいよいよ本腰を入れて政治改革に取り掛かりますが、彼が掲げた精神は「寛容」でした。
ポンペイウス派の人も、誰も処刑することはなく、許したのです。
そして改革の中で一番大きいのは、暦の改革でしょう。
今私たちが使っているのは、この「ユリウス暦」に少しだけ手を加えたものなのです。
昔の天文学者って、すごかったんですね。
もともとローマの上下水道や道路の技術は素晴らしかったのですが、それをさらに整備したのもカエサルでした。
ローマ人はお風呂好きですから、特に上下水道は重要だったのでしょうね。
ちょっと面白いのは、カエサルの案でも評判が悪くて実現しなかったことがあったそうです。
それは本の改革。
昔はパピルスで、それを巻物にしていたのですが、読書好きなカエサルはどうもいちいちクルクル巻くのがめんどくさかったらしく、そのパピルスを四角にぶった切って紙の束にして一冊の書物にしようとしたのです。
ところが、それが当時のローマ人の趣向に合わず、完全無視されたそうです。
これが実現するのは中世になって、修道僧たちによってなされました。
ただ、先見の目はあったということですね。
しかし権力の絶頂にある人間にはつきもので、カエサルにも暗い影がつきまとい始めます。
カエサルは王になりたがっているのでは、という疑惑がつきまとうようになったのです。
ローマ人は過去の経緯から、王政を嫌います。
カエサルにその気はなくても、疑惑はどんどん大きくなっていきます。
そしてその日は唐突にやってくるのです。
紀元前44年3月15日。
カエサルは暗殺されました。
犯人は14人。首謀者の一人はマルクス・ブルータス。
「ブルータス、お前もか」という有名なカエサルの言葉がありますが、実はブルータスというのは、この14人の中に2人いたのです。
今までカエサルの言った「ブルータス」はこの「マルクス」のことではという説が有力だったそうですが、どうも違ったらしいということがわかってきました。
もう一人は、「デキムス・ブルータス」。マルクスとはいとこ同士だったので、名字も同じなのですね。なんてややこしい・・・。
マルクスの方は愛人の子供でしたが、カエサルはそれほど評価していなかったらしいです。
一方デキムスの方は、ガリア戦役にも行き、カエサルも信用し、なんと遺言状には、もし第一相続人が相続を辞退したらこのデキムスへ渡すように、となっていたのです。
血のつながりがないにもかかわらず、そんな遺言状を残してくれていたことを暗殺後に知ったデキムスは、顔色を土気色にしたとのことですが、今さら遅いわ、ボケ!アホ!恩知らず!
カエサルの言葉で「人間ならば誰にでも、すべてが見えるわけではない。多くの人は自分が見たいと欲する現実しか見ていない」というのがあります。
この犯人たちはまさしくこうだったのでしょう。
さて、このカエサルの遺言状の内容は、その他に驚くべきことが書かれていました。
それはまた次回のお楽しみに。