亡国のイージス(上)(下) 福井 晴敏
2002年7月15日 講談社文庫
結構長いお話ですが、面白いし、迫力満点。
そして、とてもいいお話でした。
自衛隊という、日本にとっては何かと問題にされる、微妙な立場の組織の中での事件です。
ある特殊兵器が、北朝鮮工作員たちの手によって盗まれてしまいます。
そのリーダーの名は、ホ・ヨンファ。だれも本当の顔を見たことがないという超一流の工作員です。
一方、エリート自衛官、宮津は、同じ自衛隊の道を進んだ息子を事故で失ってしまいます。
失意の中にいる宮津のもとに、ある男がやってきてこう言います。
「息子さんは暗殺されたのだ」と。
半信半疑の宮津ですが、やがて息子が防衛大学で書いた論文によって防衛庁情報局に暗殺されたことがわかります。
やがて宮津はミサイル護衛艦「いそかぜ」の艦長として訓練に向かいます。そこには先任伍長の仙谷や、イージスシステムの経験者ということで他の船から異動してきた如月行(こう)がいました。
宮津と違い、たたき上げの自衛官仙谷は、宮津艦長の周りにいる若手の幹部たちの様子がなんとなくおかしいと感じます。
また、だれとも親しくなろうとしない行の様子も気にかかります。
しかしそのうち、行とはお互い好きな絵画を通じて、好感を抱くようになっていきます。
そして、訓練の一環として、途中で立ち寄った基地で数人の隊員を乗せるのですが、どうも様子がおかしいことに「いそかぜ」の乗組員たちは気づきます。
そして、様々な事件の末、仙谷は、宮津艦長とその周りの若手幹部たち、途中から乗ってきた隊員たちが全員グルであり、宮津が日本国に対し、殺された息子の復讐を計画していることを知ります。
そして、宮津の元を訪れ、真相を教え、途中で乗ってきた隊員のリーダーこそが、ホ・ヨンファでした。
宮津艦長の周りの若手幹部たちは、全員宮津の息子と同じ防衛大学の、息子と同じゼミにいた仲間たちでした。
しかし、結局宮津も、ホ・ヨンファに利用されていたのです。
そして、物語はどんどん、恐ろしい事件へと向かっていきます。
行の正体とは、そして宮津艦長や仙谷はどうなっていくのか・・・
まるで映画を見ているような、迫力ある映像が頭に思い浮かびます。
国が差し向けた特殊チームを魚雷で全滅させてしまうシーンは、ものすごかったです。
そして、辛い生い立ちのせいで心を閉ざす行も、仙谷と接することで心を開いていきます。
この物語は、私たちに生きる力を、活力を与えてくれます。
仙谷の、絶対あきらめず生き抜こうとする姿。行の、何があっても逃げないと決意して生きる姿。
これは私に、生きることをあきらめるな、逃げるな、戦えと言ってくれています。
たくさんの悲しい死があるなかで、最後には希望を見せてくれる物語です。
ところでこの作品、映画になっていて、宮津は寺尾聡、仙谷は真田広之だそうです。
寺尾聡はなるほどと思いますが、仙谷って太ってて、顔もいまいちっていう設定なんですよねぇ・・・。
真田広之はちょっとカッコよすぎるのでは・・・?
ま、いっか。