あんじゅう 三島屋変調百物語事続 宮部 みゆき
2013年6月20日 角川文庫
三島屋「百物語」シリーズ、第2弾です。
前回の「おそろし」もそうでしたが、今回もものすごく面白いし、感動します。
実は、同僚に何かお勧めの本はないか?と聞かれたときに、この「あんじゅう」を教えたくらいなのです。
特にこの三話目、「暗獣」は最高傑作だと思います。
暗獣「くろすけ」と新左衛門と初音の夫婦との思いやりにあふれた、そして切ない物語には胸を打たれました。
読んでいた時、よりによって電車の中で、しかも思わず泣いてしまい困りました。
誰も住まなくなった屋敷でひっそりと生きる「くろすけ」。
かわいく、いじらしく、屋敷に人が来るとこっそりと覗くところが愛らしいです。
「となりのトトロ」の「まっくろくろすけ」を巨大化させたみたいな感じらしいです。
表紙の「くろすけ」がかわいいんだ、これがまた。
そして奥さんの初音が、「くろすけ」を怖がることもなくかわいがり、そしてこのカラッとした明るい性格がとてもいいのです。
つかの間の「くろすけ」と新左衛門夫婦の楽しい生活。
しかし「くろすけ」は人とは一緒に生きることができない。だんだん小さくなり、弱っていく「くろすけ」を見て、その事実に気づく新左衛門夫婦。
夫婦の「くろすけ」に対する愛情と思いやりが素晴らしいのです。
最後、弱っても一生懸命歌うことで夫婦を安心させようとする「くろすけ」と、「くろすけ」のために屋敷を出ることにした夫婦の姿には涙してしまいます。
新左衛門が最後に「くろすけ」に言い聞かせた言葉は、思いやりにあふれていました。
それから、一話目は笑ってしまいました。
神様のおヒデリさん、最初はおどろおどろしいのかと思いましたが、どことなくユニークで憎めません。
水がめの中におしっこをしようとした新太に、そこからヌルっと出てきて、新太に一喝「こらぁ!」と叫ぶところなど思わず笑ってしまいます。
見た目がかわいい女の子が水がめの中からヌルっと出てきて怒鳴ったら、そりゃ新太も死ぬほどびっくりしたでしょう。
この「ヌルッ」というのがミソだったそうです。
新太は泣き叫び、抱き着かれた番頭さんは腰をしたたか打って、しばし動けなくなる災難に。
二話目と四話目は結構重くて深刻です。
今回も、おちかの周りの人たちがいいですね。
伊兵衛とお民、おしまに、かわいい丁稚の新太。彼は前回はそれほどでもなかったのですが、今回は大活躍です。
新しい女中のお勝もいいですね。昔は、あばたの女性はああいう風に不幸を遠ざけると信じられていたとは知りませんでした。
さて、おちかは清太郎と、青野利一郎のどちらを選ぶのか、選ばないのか。
この「百物語」シリーズは、宮部先生の時代劇の中でも最高傑作だと私は信じています。
今回も大満足の一冊でした。
またまた、愛読書が一冊増えました。