おそろし 三島屋変調百物語事始 宮部 みゆき
2012年4月25日 角川文庫
もっのすごく面白いです。
何というか、深みがあり、じ~んと心にしみわたります。
一つ一つの物語が最後見事につながっていき、主人公おちかの心の動きが丁寧に書かれていて、ついつい、おちかがんばれ、と感情移入してしまいます。
「追想五断章」を読んだ時と似た感じがしました。
ああ、いい作品を知ることができた、という喜びを感じるのです。
主人公おちかは、婚約者と、兄妹のように育った使用人松太郎が、自分を巡ってトラブルになり、松太郎が婚約者を殺して、自殺してしまいます。
その心の傷から、袋物問屋を営むおじの伊兵衛とお民夫婦のもとで暮らし始めます。
ある時、ふとしたことから伊兵衛は、おちかの心を慰めるため、百物語を集めることを思いつき、その聞き手をおちかにやらせます。
最初は戸惑うおちかですが、「黒白の間」でお客が語らう不思議な話を聞くうちに、少しずつですが心がいえていきます。
その一つ一つの物語が、ちょっと不思議で少し怖くて、そしてやりどころのない悲しみをたたえており、とてもとても深いのです。
おちかはもちろん、おちかを支える伊兵衛とお民夫婦がいい味出してます。
また、女中頭のおしまもいいし、かわいい丁稚の新太もいいです。
そして、最後の話に出てくるあの番頭は何者なのでしょうか。
西洋でいう悪魔なのでしょうか。なんともいえず不気味です。
それから、かわいそうな松太郎。
彼の心はどんなにか孤独で、暗く寂しかったことでしょう。
おちかは、本当は自分でも気づいてはいませんが、松太郎を愛していたのかもしれません。
婚約者は、そんなおちかの心に微妙に気づいていたのかも。
だから、松太郎にあんなに理不尽に当たったのかもしれませんね。
このシリーズ、まだまだ続き、最近6巻目が確か出たと思いました。
これは宮部みゆき先生の中でも、傑作の部類に入る作品だと思います。
いい作品を読んだ後は、本当に心が満足します。