ぬしさまへ 畠中 恵
2005年12月1日 新潮文庫
若だんなシリーズ第二弾です。
相変わらず身体が弱く、周りに甘やかされにいいだけ甘やかされている若だんな、一太郎。
それはまるで、甘~いイチゴ大福の上にチョコレートをかけ、更にはちみつ、砂糖でたっぷりくるんだ上に、甘~いココアと一緒に食べる・・・といった感じです。
誰かが癇癪を起して大声を上げたのを聞いただけで3日も卒倒して寝込み、すぐ熱を出したり・・・よく今まで生きてこられたものです。
これも周りの徹底したサポートの賜物でしょうか。
主人公としては最弱の部類に入るでしょう。
今回は短編集でした。
自分自身が妖の血をひいているせいで、彼の周りには妖たちが集まってきますが、その妖たちに協力してもらって、一太郎は周りの様々な事件を解決していきます。
最弱な割には、頭の回転はなかなか鋭い一太郎。
それに割と、若だんなとしての仕事っぷりもしっかりとしていて、あまりたくさんの仕事は任せてもらえていませんが、結構いい主人になるのでは、という気がします。
そしてその謎解きはなかなか鮮やかであり、とても世間知らずのボンボンとは思えない鋭さなのです。
一話一話、けっこう悲しいお話もありますが、全体としてほんわかとしたムードでそんなことを感じさせません。
ただ周りがこれだけ妖だらけだと、一太郎がお嫁さんをもらうのはなかなか難しいかもしれません。
今回の一話で、一太郎とは異母兄弟である兄が主役として出てきます。
この人は前作「しゃばけ」でも、実際の出番こそありませんでしたが重要な役割を担っていました。
一太郎は、自分と兄弟なのに奉公先で苦労している兄を心配し、いろいろと心を尽くします。
兄は兄で、弟に迷惑をかけないようにと気を使います。
よい兄弟なのです。
そして、手代であり大妖怪でもある佐吉が主役の話もありました。
この人(?)はもともと白澤という齢何千年の大妖怪で、ある一人の妖怪をずっと想い続け、守り続けました。
その期間、実に1000年!
1000年もの間、愛する人にその想いを打ち明けることなく、その人が、ある人間の男性が生まれ変わってまた巡り合うのを、何年も何年も待ち続けているその姿を、ずっと側で見守り続けるのです。
結構つらいかも・・・。
その人こそが、一太郎の祖母に当たる人であり、彼女の頼みで佐吉は一太郎を守り続ける役割を負うのです。
いや~・・・。男らしい。
一太郎も、その恵まれた環境に甘んじることなく、一生懸命立派な大人になろうと必死にもがいています。
大抵なら道楽息子になるところなのに、彼はなかなか立派な人物なのです。
全体的にいいムードで、かわいらしくて、お気に入りのシリーズです。
もっともっと読んで見たいですね。
宮部みゆき先生の時代ものの記事の中でも書いたと思いますが、昔の奉公人というのは、その奉公先によって全く運命が決まってしまい、大変でした。
特に奉公先の主人やおかみさんの人間性が、運命に大きく左右してきてしまうので、あまりよくない先に奉公にやられると、本当に悲劇です。
良い奉公先の主人やおかみさんだと、その子が将来一人前になれるよう、厳しいながらもきちんとしつけて、しっかり面倒を見ていたようです。
まあ、今の会社も基本は同じか。
でもそこで住み込みで働いていたので、やっぱ大変さは比較にならないかな。
こういう人たちがいてくれたからこそ、今の日本があるのですね。
感謝しなくてはなりません。